幸せ研究事例紹介

わたしたちは、どうすれば幸せになれるのでしょうか? 幸せには何が影響するのでしょうか? 結論から言うと、様々なことがらが幸せに影響するということが、様々な学術研究によってわかっています。ここでは、それらの概要について述べます。

〈年齢、性別、健康、宗教〉
1. 年齢と幸福の関係。様々な研究がおこなわれており、たとえば、子供や老年に比べると中年は不幸な傾向がある[Stone et al., 2010][林,2003]、若者よりも高齢者の方が満足度が高い傾向がある[Diener, 1984]など、様々な結果があります。私のグループの調査では、年齢とともに幸福度が増大する傾向がみられました[蓮沼,2012]。
2. 性別と幸福の関係。こちらも多くの研究がおこなわれています。あまり性差はなという結果と、やや女性の方が幸福という結果があります[Cooper, Okumura and Mcnell, 1995] [Diener and Lucas, 1999] [Larson, 1978]。日本での研究では、女性の方がやや幸福な傾向があるようです[林,2003][蓮沼,2012]。
3. 身体的健康と幸福の関係に関する研究も多く行われています。その結果、健康は主観的幸福に大きな影響を及ぼすことが知られています[Edwards and Klemmack, 1973] [Larson, 1978]。興味深いことに、医師による客観的な健康評価よりも、自己評価による健康(自分で健康だと思っていること)の方が、幸福感との相関が高いことが知られています[Larsen, 1992]。
4. 対麻痺患者の主観的幸福は大幅に低下するが、時間が経つにつれて大きく回復するという結果があります[Frey and Stuzter, 2006]。障害を受けた者の幸福度は少なくとも五年は元の水準に戻らないという結果もあります[Lucas, 2007]。
5. 幸福な人は健康であるのみならず長寿である傾向が高いという研究結果もあります。[Diener and Chan, 2010]。
6. 信仰心が高い人はより高い主観的幸福を感じる傾向があるようです[Okun and Stock, 1978][Batson, Achoenrade and Ventis, 1993]。ただし、アメリカでは信仰と幸福に高い相関がある一方、日本では信仰の幸福への影響が見いだせない、という研究もあります[金児,2004]。
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〈結婚、対人関係、社会的比較、感謝、親切〉
7. 結婚が幸福に影響することについては多くの研究があります[西隅,2002] [色川,2004] [白石,2007]。既婚者のほうが主観的幸福が高い傾向がありますが,近年その差は小さくなりつつあるそうです[Diener and Lucas, 1999]。我々の調査では、離婚した人の幸福度は未婚の人よりも低いですが、伴侶と死別した人の幸福度は結婚している人の幸福度と有意な差がありませんでした[蓮沼,2012]。
8. 夫婦の幸福度は子供の誕生後に低下し、子供が独立して家を出るまでそれが続く傾向があるようです[Gilbert, 2006]。
9. 親密な他者との社会的なつながりの多様性(多様な人と接すること)と接触の頻度が高い人は主観的幸福が高い傾向がありますが、つながりの数(接する人の数)は主観的幸福にあまり関係しないようです[松本,前野,2010]。
10. 人は自分と関わりのある他の人々との比較によって、自分の主観的幸福を判断してしまう傾向があります[Frey and Stuzter, 2006]。
11. 失業者の幸福度は低い傾向がありますが、同じような失業者が周囲にたくさんいる場合はその不幸を痛切には感じないようです[Frey and Stuzter, 2006]。
12. 家族・友人関係の満足度と主観的幸福の相関は、日本のような集団主義的な社会では小さく、アメリカのような個人主義的な社会では大きいようです[Diener and Diener, 1995]。
13. アメリカでは「対人関係の満足度」と「自尊心」との相関が強いですが、日本では弱いようです[Uchida et al., 2001]。
14. ボランティア活動や慈善行為は幸福度に大きく寄与します[Frey & Stutzer, 2005]。月に一回同好会の集まりに参加するだけで、あるいは、月に一回ボランティア活動に参加するだけで、所得が倍増するのと同じくらい幸福感が高まるそうです[Helliwell & Putnam, 2007]。
15. いざという時に頼れる人がいる、と回答した人の割合が多い国は、人生満足度の高い国であったという131か国国民調査結果もあります。[Oishi and Schimmack, 2010]。
16. 他人のためにお金を使ったほうが、自分のために使うよりも幸せだという結果があります[Dunn, Aknin and Norton, 2008]。
17. 感謝(gratitude)が物欲を低下させ、幸福を高める効果をもたらすことが知られています[Polak and McCullough, 2006]。
18. 親切心(kindness)に基づく行為を日々カウントすることによって、幸福度は高まるという研究結果があります[Otake, Fredrickson et al., 2006]。
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〈性格、気質〉
19. 主観的幸福の基本水準は遺伝的な気質によって先天的に決定されているというショッキングな研究結果があります[Headey and Wearing, 1989]。人格特性や主観的幸福の50%程度は遺伝により説明できるという研究もあります[Lykken and Tellegen, 1996]。
20. 多くの研究で「外向的な人ほど幸福」な傾向が確認されています[Lucas et al., 2001]。
21. 幸福度の高い人はよい出来事を思い出しやすく、出来事をポジティブに解釈する傾向があります[Seidlitz and Diener, 1993]。
22. 日常生活の平凡な経験も「満喫する」態度を持つようにすると満足度が高まることが知られています[Bryant and Veroff, 2007]。
23. 人は、良い事が起きると自分の手柄に、悪いことが起きると他人のせいにする、厄介で勝手な傾向を持っています。これは「ポジティブ幻想」と呼ばれています[Tayler and Brown, 1988]。
24. 神経症傾向の強い人は幸福感・人生の満足度が低い傾向があることが知られています[DeNeve and Cooper,1998][Heller et al., 2004]。
25. 自己統制感(自分で自分を統制しているという感覚)の高い人は低所得でもあまり不幸を感じないことが知られています[Lachman and Weaver, 1989]。
26. オートテリック(自己目的的)な人ほどフローを体験しやすいことが知られています[Asakawa, 2004]。なお、フローとは、内発的に動機付けられた、時間感覚を失うほどの高い集中力、楽しさ、自己の没入感覚で言い表されるような意識の状態あるいは体験だと言われています[Csikszentmihalyi, 1975, 1990]。
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〈目標、教育、学習、成長〉
27. 目標達成は幸福観に影響します[Brunstein et al., 1998]。
28. 日常的目標と人生の目標の間に一貫性がある人は、人生満足度が高い傾向があります[King et al., 1998]。
29. 教育と主観的幸福の間には有意な相関が見出せないと言われています[前田他,1979]。
30. 成績と幸福観には正の相関がありますが、非常に幸せな人は、もう少し幸福度が低い人よりも少し成績が低い傾向があるようです[Oishi and Diener, 2007]。
31. ポジティブな気分になると記憶力は落ちる傾向があります[Storbeck and Clore, 2005]。また、ポジティブな気分は「関係性への着目」を促す一方、ネガティブな気分は「個別要素への着目」を促す傾向があります[Storbeck and Clore, 2005]。
32. 「抽象的な視点を促す群(学校の成績はおおざっぱにいいか悪いか)」と「はっきりとした基準を促す群(学校の成績の平均は何コンマ何点か)」を比較すると、前者の方が幸福感が高い傾向があります[Updegraff and Suh, 2007]。
33. 多様な選択肢がある場合に「常に最良の選択を追及する人」よりも「そこそこで満足する人」の方が幸福な傾向があります。また「最良を追及する人」の場合、選択し得られた事の幸福感よりも、選択から外したものを得られなかった事への失望を強く感じてしまう傾向があります[Schwartz, 2004]。
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〈収入、雇用、消費、生活、趣味〉
34. 収入と幸福の関係については多くの研究があります。たとえば、「生活満足度」は年収と比例する傾向があるのに対し、「感情的幸福」は、年収75,000ドルまでは収入に比例して増大するものの、75,000ドルを超えると比例しなくなるという結果があります[Kahneman, 2010]。同様に、長期的に見れは、収入と幸福の相関は弱く、収入か増大しても主観的幸福感は高まらない傾向があります[Diener and Oishi, 2000]。これを「快楽のランニングマシン(Hedonic Treadmill)」(人は快楽を求めて常にランニングマシンの上を走り続けるが、きりがない)と呼びます[Diener, Lucas and Scollon, 2006]。
35. 多くの研究で、失業が不幸につながることが知られています[佐野,大竹,2007]。失業はその所得損失以上に幸福度を低下させるようです[Frey and Stuzter, 2006]。研究者によっては、離婚や別居などの他のどの要因よりも失業は幸福を抑制するといいます[Clark and Oswald, 1994]。
36. ものを購入する際に「あらゆる情報を仕入れ細かく吟味派」と「ある程度適当でOK派」を比較すると、前者の方がうつ傾向が高く、後者の方が幸福感が高い傾向があります[Updegraff and Suh, 2007]。
37. ものを購入することは幸福感とあまり関係がないようです[Solberg, Diener and Robinson, 2004]。
38. テレビや映画を見ることよりも、運動、園芸、スポーツの方が高い満足感をもたらします[Donovan and Halpern, 2002]。
39. テレビや服などの物質的消費よりも、コンサートや旅行などの体験的な消費の方が、幸福感に強く影響します[Van Boven and Gilovich, 2003]。
40. 音楽、絵画、ダンス、陶芸などの美しいものを見るよりも、それらを創造する方が主観的幸福度が高い傾向があるようです。自分の顔を美しくする化粧も幸福と正の相関がありますが、整形は負の相関があります[大曾根, 2012]。
41. スポーツ活動、社交クラブ、音楽・演劇団体、スポーツチームへの参加といったグループ活動は主観的幸福と相関があり、抑うつや不安を低減するといわれています[Argyle, 1996]。
42. 幸福度が最も高い上位10から12パーセントの人々は、彼らよりもわずかに幸福度が低い人たちほどには高収入ではないし政治参加も積極的ではありません[Oishi, Diener and Lucas, 2007]。
43. アメリカの中高生への調査の結果、労働者階級の子供たちの方が中上流階級の子供たちよりも幸福感が高いという結果もあります[Chikszentmihalyi and Hunter, 2003]。
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〈経営・リーダーシップ・仕事の成果・人間関係〉
44. ポジティブな感情が強い傾向を持つ従業員は、仕事の自律性、仕事の意味、仕事の多様性が重要とされるような仕事をしている傾向があります[Staw, Sutton and Pelled, 1994]。
45. ポジティブな感情が強い傾向を持つ従業員は、上司から好意的な評価を受ける傾向があります[Staw, Sutton and Pelled, 1994]。
46. 幸せな人々は上司から高評価を受ける傾向があります[Cropanzano and Wright, 1999] [Wright and Staw, 1999]。
47. 仕事の満足度よりも幸せ度のほうが仕事の成果に関係する傾向があります[Cropanzano and Wright, 1999] [Wright and Staw, 1999]。
48. 上司による仕事のパフォーマンス評価は、仕事への満足度とは相関しないが、幸せとは相関します[Wright and Cropanzano, 2000]。
49. 幸せなリーダーのいるサービス部門は、顧客からより高い評価を得る傾向があります[George, 1995]。
50. 販売部門の人々の感情のポジティブなトーンが高いほど顧客満足度は高い傾向があります[George, 1995]。
51. 楽観的な生命保険エージェントほど売り上げが高い傾向があります[Seligman and Schulman, 1986]。
52. 楽観的なCEOは、パフォーマンスが高く、経営する会社への投資のリターンも高い傾向があります[Pritzker, 2002]。
53. 幸せで満足した社員は、離職率が低く、欠勤率が低く、バーンアウトしにくく、会社への報復的行動が少ない傾向があります[Donovan, 2000] [Locke, 1975] [Porter and Steers, 1973] [Thoresen, Kaplan, Barsky, Warren and de Chermont, 2003]。
54. ポジティブなムードで仕事をしている者は、離職率が低く、会社への報復的行動をしにくく、組織市民としての行動を行ない、仕事で燃え尽きにくい傾向があります[Donovan, 2000] [Crede, Chernyshenko, Stark and Dalal, 2005] [Miles, Borman, Spector and Fox, 2002] [Thoresen, et al., 2003]。
55. ポジティブな感情の多い社員は欠勤しにくいようです[George, 1989]。
56. 穏やかでポジティブな感情の多い社員は他の社員とのコンフリクトが少なく、仕事を辞めにくい傾向があります[Van Katwyk, Fox, Spector and Kelloway, 2000]。
57. 収入と幸福度は比例する傾向があります[Lucas, Clark, Georgellis and Diener, 2004] [Graham, Eggers and Sukhtankar, in press]。
58. ポジティブな感情や長期的幸福感は仕事への満足度と関係する傾向があります[Weiss et al., 1999]。
59. 仕事を行なう際にポジティブな感情を示す者は、親切で、同僚を助けるなど、仕事上すべきこと以上の行動をする傾向があります[Donovan, 2000] [George and Brief, 1992] [Organ, 1988]。
60. ポジティブ感情を示す者は、他の社員を助け、組織を守り、生産的な提案をし、組織内で自分の能力を向上させる傾向があります[Donovan, 2000]。
61. 幸せな人は、健康、教育、政治、宗教などの組織でチャリティーや奉仕などのボランティアを行なう傾向が高いようです[Krueger, Hicks and McGue, 2001] [Thoits and Hewitt, 2001]。
62. 幸せな人は信頼できる友人や同僚の数が多い傾向があります[Baldassare, Rosenfield and Rook, 1984] [Lee and Ishii-Kuntz, 1987] [Mishra, 1992] [Phillips, 1967] [Requena, 1995]。
63. 友人との接触は、質・量ともに幸福度に影響するようです[Pinquart and So¨rensen, 2000]。
64. 幸せな人は他人をねたむ傾向が弱いようです[Pfeiffer and Wong, 1989]。
65. 孤独と幸せは負の相関があります[Lee and Ishii-Kuntz, 1987]。
66. 幸せなコミュニティーに属する者はグループ活動や余暇活動を楽しむ傾向があります[Lu and Argyle, 1991]。
67. 働く社会人の研究によると、幸福感が、本質的に価値のある経験、すなわち、個人が自分自身として行ないたいことと関係しています[Graef, Csikszentmihalyi, and Gianinno, 1983]。
68. 幸せでリラックスしている人はクリエーティビティーのテストのスコアが高い傾向があります[Cacha, 1976] [Schuldberg, 1990]。
69. 幸せな人は、意思決定の際に、時間や努力のコストを度外視してまでアウトカムを最大化しようとするのではなく、最適で満足度の高い意思決定をする傾向があります[B. Schwartz et al., 2002]。
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〈政治、安全、文化、その他〉
70. 直接民主制(政治プロセスへの参加)は人々の生活満足度を高めます[Frey and Stuzter, 2006]。
71. 冷戦後、情勢不安のあったロシアや、イラクの侵攻危機下にあったクウェートでは、生活満足度は低かったことが知られています[Veenhoven, 2001]。
72. 東洋の集団主義文化においては、満足度と強い相関があるのは、「自尊心」よりも「調和」であることが知られています[Kwan, Bond and Singelis, 1997]。
73. アジア系の人は将来の目標達成につながる活動に幸福を抱き、欧米系はより刹那的なものに幸福を感じる傾向があります[Asakawa and Csikszentmihalyi, 2006]。
74. 幸福観の高い人は、左脳前頭葉部の活動が右脳前頭葉部の活動よりも活発だということが知られています[Ryff, 1989]。なお、チベットの仏教僧は、左脳前頭葉部の活動が右脳前頭葉部の活動よりも活発だそうです。また、瞑想の訓練を行っている人は、行っていない人よりも、左脳前頭葉部の活動が活発です。よって、左脳前頭葉部の活動は幸福や穏やかな心とかかわっているようです。
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※このリストは、主に以下の書籍・論文に掲載された内容を転載したものです。
幸せのメカニズム 実践・幸福学入門、講談社現代新書、2013年
・Sonya Lyubomirsky, Laura King and Ed Diener, The Benefits of Frequent Positive Affect: Does Happiness Lead to Success?, Psychological Bulletin, 2005, Vol. 131, No. 6, pp. 803–855